『デュアルキャリア・カップル』に学ぶ「7割が共働き」時代の新しい価値観

キャリアと制度

先日、下記のセミナーに参加させていただきました。
なぜ“個人”への支援だけでは行きまるのか? 『デュアルキャリア・カップル』に学ぶ
「7割が共働き」時代の新しい価値観

「7割が共働き」この世帯構造は今後を考える上でも、キーワードになると思います。
共働き等世帯の状況 労働力調査(詳細集計)結果から

総務省統計局から2025年2月14日発表された「労働力調査(詳細集計)」
この調査(2023年結果)によると、日本の夫婦がいる世帯(非農林業)では共働き世帯が1,278万世帯に増加、専業主婦世帯517万世帯の2.5倍以上になっています。
共働き世帯比率は初めて7割(71.2%)を超え、共働き世帯が主流。
日本の世帯構造が大きく変化していることが分かる数値ですね。

このセミナーでは、書籍『デュアルキャリアカップル 仕事と人生の3つの転換期を対話で乗り越える』をプロデュースされた英治出版のプロデューサー安村侑希子氏の方のお話がメイン。
ご自身もデュアルキャリアカップルの当事者でもあり、海外で読書会なども開催された経緯から、参加者の方からの質問も多く出ていました。

なぜこの本が売れ続けているのか?それも、気になるところですよね。
ざっくりと内容をお伝えしていきたいと思います。

デュアルキャリアカップルとは?

・2人とも、自分の職業生活が人生に大切で、仕事を通じて成長したいと考えているカップル。

・共働き(お金のために働く側面が強い場合も含む)とは異なり、2人とも自分のキャリアを人生の重要な要素と捉えているカップル。

それぞれのキャリアも、二人で歩む人生も、諦めない。
『デュアルキャリアカップル』の本は、INSEAD准教授であるジェニファー・ペトリリエリ氏が、26歳から63歳まで、日本を含む32ヵ国113組のカップル(同性カップル、事実婚、再婚含む)を調査。子育て、転勤、キャリアチェンジ、介護、退職、子どもの自立……
人生100年時代、キャリア志向の二人に立ち塞がる3つの転換期と、その乗り越え方を説いている本です。

社会の変化と注目

・共働き世帯の増加(現在7割)、総合職夫婦の増加、女性管理職割合の増加、男性育児休暇取得率の向上など、社会構造の変化がこのテーマへの関心を高めています。

・発売当初からじわじわと読まれ続けており、著名人や読者の口コミによって、「読んだ方が良いよ」という共感のメッセージから広がっているようです。

本の構成と3つの転換期

・この本では、日本を含む32カ国113組のキャリア志向カップルへの調査に基づき、キャリア志向のカップルが人生で遭遇する3つの「転換期」と、それを乗り越える方法を提示しています。

・転換期の前には、制約が少なく、お互いのキャリアや生活がスムーズに進むハネムーン期間が存在します。しかし、以下のような転換期で壁にぶち当たります。

1. 第1の転換期:制約との両立

内容:転勤、出産・子育て、介護など、キャリア以外の要因で時間や場所の制約が生じたとき、
 2人のキャリア両立をどうするか?という問いに向き合う時期。

・お互いのキャリアアップのタイミングと重なり、「どちらのキャリアを優先するか」というバトル
 になりがちです。

陥りがちなワナとしては

 →経済的に判断しすぎる
  (収入が高い方のキャリアを優先し、長期的なメリットを見落とす)。
 →無意識にすり込まれたジェンダーバイアス
  (子育ては女性がするものと思い込む、または周囲からの期待を感じる)など。

2. 第2の転換期:変容のサポート

・キャリアや人生に迷いが生じて、お互いの変化(例えば、大幅な収入ダウンを伴う転職、働く時間の増加/減少など)をサポートし合えるかが問われる時期。

3. 第3の転換期:アイデンティティの再構築

・仕事の退職、子どもの自立などで家族の人数が戻り、自己のアイデンティティを見つめ直す。
「私たちは何者なのか」を2人で向き合う時期。

第1の転換期を乗り越える「対話のヒント」

転換期を乗り越える鍵として挙げられていたのは、「対話をすること」です。

安村侑希子氏はご自身が夫の海外駐在(転勤)により当事者となった事例で本書のツールを活用しされたそうです。
「半年間なら離れていられる」という限界を共有して、6ヶ月遅れて駐在先に合流した経緯を紹介しました。

1. 2人の協定づくり

価値観
「良い人生」「良い家庭生活」とは何かを書き出し、お互いの予想外の価値観を知る。

限界
 地域的限界(どこなら住めるか)、時間的限界(どれくらいなら働けるか)、不在の限界(単身赴任や出張の期間・頻度)など、具体的な制約を話し合う。

何を恐れているか
  不安や恐れを共有する。

2. キャリアの地図づくり

「一緒に選ぶための5つの問い」や「キャリアの地図」(今後10年間の目標ややりたいこと、子育てのイベントなどを並べる)を通じて、普段話さない具体的なキャリア目標や生活のイベントを可視化し、未来を見通して考える。

会社側の対応と今後の課題

デュアルキャリアカップルが直面する課題の根底には、「会社側の構造的な問題」があることが共有されました。

パートナー(配偶者)のキャリアのに関する認識不足
  海外赴任時の現地生活サポートなどが専業主婦を前提としている場合が多い。

制度と現実のギャップ
  帰国時期の急な決定により、パートナーの復職や子どもの保育園入園計画が延期になるなど、夫婦側で努力しても会社都合で調整を強いられる。

コミットメントへの誤解
 家族の需要で時短勤務や出張期間を短くすることが、「コミットメントが低い」と社内で見なされ る風潮がある。

多様な家族構成への非対応
 戸籍上の結婚ではない同性婚や事実婚のパートナーへのサポート制度が存在しない。

【企業への提言(著者論文より)

・パートナーの人生にまで配慮した人材戦略をとらないと、優秀な人材は流出するという指摘がされています。

・ご主人の海外赴任に同行された安村氏は、この本の読書会を主催されていました。
そのときの経験から転換期のタイミングでカップルで参加できる読書会やコーチングなどの機会が提供されれば、夫婦がお互い納得して次のステップに進めるのではないかという提案がありました。

参加者との対話から

対話の難しさ
  会社では同僚と対話できたり、1on1をやっていても、家庭となると話は別。
 「言わなくても分かるはず」という阿吽の呼吸への期待があるため、逆に深く話し合うことが難しい。

「問い」の重要性
対話のテクニックよりも、本書のツールにあるような「共有できる共通の問い」を持つことで、お互いが試行錯誤し続けるきっかけになる。

価値観(ビーイング)の優先
家事分担などのドゥーイング(やること)に話を向けるのではなく、ビーイング(あり方・価値観)のすり合わせができていると、結果的にドゥーイングもスムーズに進むという気づき。

内省の必要性
スムーズに転換期を乗り越えたと思っていたのは、自身のジェンダーロールへのバイアスがあったからかもしれないという内省の声も共有されました。


セミナーの全体を通して、デュアルキャリアカップルが直面する課題を個人だけの問題とせず、社会や企業の構造と関連付けて深く考察する貴重な機会だと感じられました。

育児介護休業法が改正され、男性の育児休業も取得率が上がり、こうした水面下に潜んでいた問題が注目されてきているのだと改めて思います。

長くワーママを続けている私も、キャリアに悩んだ時期がありました。
そのとき夫と話をできたかというと、できなかったです。
毎日、仕事と家庭に追われすぎて、言う時間さえなかったような気がします。

でも「今はこういう対話の本がある」
悩んでいる方は、手に取ってみるのも良いのではないでしょうか?

一人一人のキャリアと共に、パートナーシップ・家族での「あり方」を考える。
今後も追っていきたいテーマの一つです。