『経営に参画する世界基準の人事』 ~「戦略人事」が組織を根本から強くする

キャリアと制度

ブログをご覧いただきありがとうございます。

先日、著者の藤間美樹 (ふじま・みき)氏が講演された出版記念イベントに参加させていただきました。

元人事責任者の視点から、日本企業が推進する「人的資本経営」がなぜ成果に繋がりにくいのか。経営戦略と人材戦略を連動させる方法、そして人と組織の活性化の重要性について解説してくださいました。

講演の目的と現状認識

講演の目的

藤間氏の根本的な思いは「日本を強くする」ことにあり、そのためには「人・組織をもっとやる気にさせること」が不可欠であるという問題意識が根底にあります。

日本の現状認識

世界的に株価が大きく上昇する中、日本はようやく元に戻った程度であり、世界の動きから取り残されている現状に危機感を持ち、この差がどこから生まれているのかを突き詰めて考える必要があるとしています。

人的資本経営の課題

多くの企業が人的資本経営で人材戦略を立てる際、ステップ5:アウトカムに至る前で止まっていることが最大の課題です。
(当日は図を拝見しながらお話を聴いておりました。
ブログでは、図がなくて分かりづらいかもしれません)

  • ステップ4(施策実行)で停止
    施策(例:女性管理職比率の目標設定、男女の賃金格差是正)を実行すること自体が目的化し、本来の目的であるステップ5のアウトカム
    (例:生産性の向上、新規事業の創造、競争力の構築、人手不足の解決)と結びついていません。
  • 根本原因
    施策とアウトカムが結びついていない原因は、人・組織が活性化していないことにあると指摘されています。

経営戦略と人材戦略の真の連動

「山登り」で見る戦略の連動

経営戦略と人材戦略の連動は、よく「山登り」に例えられます。

  1. 経営戦略: どこへ行くか(どの山に登るか)を経営が判断する。
  2. 人材戦略: 登山を実現するための「登山隊の結成」「必要な装備の調達」「登る人の育成・採用」を行う。

しかし、この連動は「上から目線」であり、経営や人事が一方的に決めた戦略を人にやらせるだけでは、人が動かず、組織も機能しません。

モチベーションとエンゲージメントの鍵

人が動くためのモチベーションとエンゲージメントは、以下の2つの要素で決まります。

  1. 何をするのか(仕事の意義)
  2. 誰とするのか(人間関係と信頼)

アクションはたった一つ

上司がこのモチベーションを高めるために取るべき行動は、「上司が自分の言葉で(戦略の意義を)語りかけ、部下に『君はどう思う?』と問いかけること」です。

これにより、部下は「やらされている」ではなく、「自分で意見を出し、当事者として戦略に関わっている」と認識できます。

戦略人事の役割と組織の活性化

戦略人事の定義

講演者は、戦略人事の役割を「戦略実行できる組織を作ること」と定義しています。

戦略実行できる組織を作る流れ

  1. 戦略が先
    まず戦略を確立する。
  2. 組織図の作成
    戦略実行に最適な組織図(各ポジションの役割と責任)をイメージする。
  3. 人材要件の明確化
    ポジションごとに必要な人材要件(スキル、経験)を明記する。
  4. 最適な配置
    上記要件に基づき、誰が最適かを決める。

【日本の課題】
日本企業では、人材の流動性が低く、人を辞めさせられないため、「今いる人で組織を組む」という考えになりがちです。これにより、戦略に対して最適な組織になっていないことが多いと危惧されています。

組織風土とリーダーの影響

調査データによると、業績に影響を与えるのは:

  • 組織風土: 30〜40%
  • リーダーの存在: 70%

リーダーの存在が組織風土と業績に決定的な影響を与えます。

【日米野球の比較から見る風土】

  • 日本の野球
    成果を出すことよりも「失敗しないこと」を重視し、選手個人の頑張り(極端な守備シフトを敷かずに飛びつき以上に頑張れ)に頼りがち。
  • アメリカの野球:
    「いつも通りやればアウトにできる」と、成果を出すことを重視する。

日本のマネージャーは、変化を恐れ、人と違うことをするのをためらい、成果よりも失敗しないことを重視する傾向があり、これが組織の活性化を妨げている可能性があります。

4. 理念(パーパス)の定着と戦略の伝え方

企業の「思い」を紡ぐ

企業には、世の中のために成し遂げようという**「思い(理念)」**があるはずです。この理念を単に掲げるだけでなく、社員一人ひとりの仕事に結びつけることが重要です。

  • パタゴニアの事例
    「地球環境保護」という理念実現のため、創業者が株を売却するなど、理念と行動の「一貫性」を示している。
  • ディズニーの事例
    「ハピネスを創造する」というパーパスに対し、マネージャーは「(テーマパークのゴミ拾いのような)この仕事に意味がある」ことを語りかけ、仕事と戦略を結びつけている。

戦略の「映像化」と「翻訳者」

戦略を実行に移すには、上司が部下に戦略を伝える際に工夫が必要です。

  • 映像化(イメージ)
    ミッション、ビジョン、目標を「私たちはどこに向かおうとしているのか?」「現在どこにいるのか?」「どのようにして到達するのか?」という映像(イメージ)で伝えることで、理解度が高まる。
  • 翻訳者の存在
    戦略の立案者(経営)と実行者(現場)の間には、「翻訳者」(マネージャー)が必要です。
    マネージャーが、社長の言葉を現場の人間に伝わる言葉に変換し、意味付けをする役割を果たすことで、戦略は現場に浸透します。

結論

人事で最も大事なことは、「正しいことをやり抜く倫理観」を持ち、「人と組織の活性化」というゴールを見据えた行動を継続することです。