今回、ご紹介させていただく鶴見 陸さんは、イギリスの大学で建築学とランドスケープ学を学ばれています。ランドスケープは、都市や公園、広場における空間のデザインのことを言います。
県立高校からイギリスの大学へ進学されたきっかけ、現地での学びなども聴かせていただきました。
ご両親が幼少期に楽しく英語を学べるような環境を作ってくれたことは、保護者の方にも参考になりそうですね。
【鶴見 陸さんのプロフィール】
県立浦和高等学校を卒業後、イギリスのシェフィールド大学に留学。
大学で学んだ建築学とランドスケープ学を活かし、卒業後は緑地の設計・施工・メンテナンスを手掛けるランドスケープの仕事に従事している。
海外の大学には、どのようなきっかけで行かれましたか
高校3年生となりいよいよ志望校しっかり考えたい、という時期に「多少は英語話せるし、 海外の大学に行く、なんちゃって?」という軽い考えから実際にどんな選択肢があるか調べ始めたことがきっかけでした。
小さいころから手を動かして遊ぶことや、ものづくりをすることが好きだったので、国内外の大学を探すときに建築かデザインの学部に入ろうと考えていました。
その上で各大学のコースの内容や学費、生活環境などの情報を収集していきながら大学を決めました。
ご両親の反応はいかがでしたか
もともと両親が小さいころから楽しく英語を学べるような環境を作ってくれたこともあり、現実的な選択肢なのかとても心配されながらも、志望そのものには「いいんじゃん」と共感してくれて、たくさん協力してもらいました。
当時、自分の進学先のことだから自分が調べて行動しないと、と意地を張っていたのを思い出しますが、両親なりの視点で見つけてきて くれた海外留学フェアに行ってみたり、お金の面で相談に乗ってもらったり、と助けてもらったのでとても感謝しています。
前例の少ない進路だったので自分と同じくらい両親も 緊張しながら進学準備を見守ってくれたと思いますが、とにかくよく話してどう道を開いて いこうか一緒に考えてくれました。
楽しく英語を学べるような環境!詳しく教えていただけますか
家から近い場所にインターナショナルの幼稚園があり、そこに両親が通わせてくれたことが楽しく学べるきっかけになりました。幼稚園では10~14時の平日4時間でしたが、そこで楽しい英語の時間を過ごしながら聞き取れるようになり、話せるようになりました。
この幼稚園に行かせてもらえたのは本当に良かったです。
その後は公立の小中高と進みましたが、学校ではあまり触れることはなく、中学や高校は受験英語でした。
小学校のときによくやっていたのは、英語のオーディオブックを聞くことです。ハリーポッターやファンタジー系などで自分が興味のあるものを買ってもらい、それを聞いていました。あと、映画もたくさん見ていました。
英語を話す環境はなかったのですが、聞くことのできる環境があり、自分もそれをやらされていた感覚はまったくなく楽しいことだと思っていました。
そのきっかけ作りはありがたいことだと感じています。

大学はどのように選びましたか
イギリスのシェフィールド大学は、建築とランドスケープ※を唯一、同時に学ぶことができたからです。
(※ランドスケープ→建築やデザイン分野では、都市や公園、広場における空間のデザインのことです)
この2つは違う分類に分かれていますが、現場で実際に建物を建てるときやプロジェクトが動くときは隣り合わせで仕事をすることが多いです。
建築とランドスケープという、まったく違う考え方とバックグラウンドを持っている人同士が一緒に仕事をするため、シェフィールド大学では、この2つを違うものとして捉えるのではなく、同じ枠組みの中で考えればお互いの良さを活かし合える空間作りに繋げられるというのが設立の趣旨になっています。
留学先ではどんな驚きや学びがありましたか
留学先ではどんな驚きや学びがありましたか
(日本の大学で勉強した経験がないため、学部研究の比較はできませんのでそれを前提に話させていただきます。) 学部の研究よりは生活の中での驚きや学びが多かったです。
まず、ブレグジットやコロナウイルスの拡大など国内情勢を揺るがす節目を経験できたので、イギリス国民の葛藤 を当事者でありながら客観的な視点からも見る機会を得たのは大きな収穫の一つだったと思います。
経済、人種、性別など、様々な理由で分断の方向に進まないよう、みんなで知恵を出し合って助け合って社会を支えていこう、という国民の強い意識が地域活動から見受けられました。
同世代の多くは政治への関心がとても高く、それがごく普通であることに最初は驚きましたが、自然と自分も積極的に地域社会に参加したり、政治的意見を考えるきっかけとなりました。

「みんなで知恵を出し合って助け合って社会を支えていこうという意識」の具体的なエピソードはございますか
大前提としてイギリスは多民族社会で、歴史的にさまざまな背景があり、移民の方が何世代にもわたって暮らしています。
日本から来た学生としては、こんなにいろいろな人が混ざっている社会なのだと最初は驚きました。
人種差別はもちろんのこと、少なからず迫害も関わっているので、過去の歴史を自分達の声でしっかり伝える、自分達が受け継いでいくという場面をよく目にしました。
具体的には、芸術として表現することや集会などの集まり、音楽で伝える方法もあります。
大学にいると、例えば他国である人種の血筋をひく方が「自分達はなぜイギリス国民として今、ここに存在しているか」など伝えている場面を見ることもあります。
こういった社会的・歴史的背景があると「当事者である人」がたくさんいます。イギリスはこういった当事者が多いので、社会としてもそれを重く受け止めています。
一過性のものではなく、これから先もずっと引き継いでいく大事なことであるという熱量があります。
いろいろな範囲がありますが、地域の1人として関わることもあればグループや団体の1人として、また政府の取組などさまざまなサポートの仕方があります。
歴史的背景や社会の現状などを把握して、僕たちみんなが生きやすいように、どういうコミュニティを作ったら良いか、どういう地域活動をすれば良いかなどをよく考えています。
今の日本も海外から移住された方が増えていると思います。
日本の生活は安心があり、その生活を求めていらっしゃる方も多いと思います。
さまざまな方が住みやすい環境を整えるのは行政などの機関だけでなく僕たち一人一人にもできること、やるべきことは多く、暮らしの中で受け入れられるよう積極的にコミュニケーションをとっていくことが大事だと思っています。
同じように海外を目指す方へアドバイスをお願いします
できるだけ心がけたら良いと思うのは、少々ひっかかることがあっても、それをうまく流せるようになることや、フラットに物事を受け入れることですね。
いろいろな人がいるので、いちいち敏感になると難しいこともあります。
これらは自分が暮らしてきた環境とは違う海外で過ごし、勉強するときに役立つと思います。
僕が3年間イギリスの生活を楽しめたのは、もともと人見知りなどはなく、どんな人とも会話できるというのもあると思います。
誰と会話するのにも困ったことはなく、まったく違う環境に身を置くことになっても助かったところです。
自分が社交的だと思ったことはなく、1人の時間も大切にしているので、いろいろな人ととにかく会うのが好きというワケではないですが。
ただ、まったく知らない人と初めて話すのにも抵抗はないですね。
日本人であるかないはあまり関係なく、年齢が全然違っていても考え方が全然違うと思っても話せるので、それはすごくラッキーだと思います。

今はどのような仕事をされていますか
ランドスケープという緑地の設計・施工・メンテナンスを手掛ける仕事を今年5月よりして います。
現在のお仕事を選んだ理由を教えいただけますか
大学で建築学とランドスケープ学を専攻し、そこでの学びを仕事にしたいと思い働く会社を探しました。
大学では設計と小論文の課題が多く、自分の考えた設計を実際に施工してみる機会が残念ながらありませんでした。
設計だけをするというよりはプロジェクトで一から十までを把握したいという思いがあり、設計事務所ではなく今の会社に入社しました。

実際に働いてみていかがですか
自分の求めていた仕事にしっかり携われているので大満足です。
特に施工監理という現場仕事の統括の仕事をすると設計をする際に気をつけたい点等がたくさん見つかり、魅力的かつ施工しやすい設計につながるという実感があるのは嬉しいです。
イギリスと日本では植物にだいぶ違いがあり(しかも日本は樹種が豊富!)、建設業界のいろはもクセがあるので、勉強することはとても多いですが、確実に成長させていただいています。
海外の大学でのご経験が活きる場面などはございますか
海外にいたことそのものが仕事に活きた場面は今のところありませんが、大学在学中に出会った仲間との縁は予想以上に強く残っています。
その中には日本にワーホリで来て大工の弟子入りをしていたり、日本の大学院で建築の研究を始めた仲間もいます。
みんなが大学卒業後各個人の視点で探求を続けていることにはとてもパワーをもらうので、これからもお互いの活動に刺激され合える仲であればと思います。(大学以前の仲間にもいえることですが!)
近い将来の希望などどのようにお考えですか
まずは数年今の会社でランドスケープの仕事に集中し、できれば初々しい1人前になるこ と。
そのうえで20代のうちに建築の設計も経験したい思いがありますし、大学院でもでき なかった研究もしたいですし、旅もしたい…やりたいことはたんまりあります。
今からあまり考えず、その場その場のご縁や運も大切にしながら進んでいければなと思います。
~恩師の先生からもメッセージをいただきました~
鶴見君、ご就職おめでとうございます!!
両親の愛情と先見の明があったこそと思いますし、何よりもご本人の努力と明るく素直なお人柄がここまでの成功の要因ですね。
そして、柔軟な思考と確実な実行、過程を大切にするマインド、納得がいくまで選択肢を考え抜く粘り強さ。
公立高校から海外大学に進学し、その時の夢を活かせる形で就職なさっているプロセス全てが後に続く人の希望ですね。
埼玉県立浦和高等学校同窓会奨学金財団理事 小河園子(おがわそのこ)
