人的資本経営を現場につなげる〜中小企業が人を活かす経営に取り組む3つのメリット~

事例

前回の続きになります。
人的資本経営を現場につなげる〜企業を取り巻く3つの大きな変化~

今日はこちらの3つのメリットからご覧ください。

中小企業が人を活かす経営に取り組む3つのメリット

人的資本経営は、リソースが限られた中小企業だからこそ、より大きな効果を発揮します。

1.優秀な人材が集まり、社員が長く定着する

「選ばれる会社」になるために、投資の姿勢は重要です。
従業員数が少ない中小企業では、一人ひとりのスキルアップが、会社全体の業績に直結します。

会社が社員の成長を支援し、「あなたは大切な存在だ」というメッセージが伝わると、社員の会社への愛着(エンゲージメント)が高まります。
エンゲージメントが高まれば、離職の防止に直結します。

離職が減れば、採用にかかるコストや手間を大幅に削減できます。
福島県の株式会社三義漆器店さまは、従業員との双方向のコミュニケーションを大切にして、全員で働きやすい職場を作り、5期連続の増収増益を達成しています。

2.組織の力が上がり、ムダが減って生産性が高まる

人的資本経営は、社員の能力を最大限に引き出し、組織のパフォーマンスを高めます。
社員が「自分の仕事が会社の目標にどうつながっているか」を理解すると、自律的・主体的に行動できるようになります。

福岡県のIT企業である株式会社ペンシルさまでは、長時間労働の是正に取り組んだにもかかわらず、収益性を維持することに成功しています。
エンゲージメントサーベイで課題を可視化し、改善を続けた結果、組織が自発的に動く「ボトムアップの文化」が根付いたことが成果につながりました。

3.経営者と現場の距離が近い

中小企業には、大企業にはない強力な強みがあります。それは経営者と現場の距離が近いから始めやすいということ。

① 意思決定のスピードが速い
複雑な手続きなしに、新しい制度や働き方(柔軟な勤務体制など)をすぐに導入できます。
現場で試行錯誤を繰り返す「小回りの利く経営」が可能です。

② 理念が伝わりやすい
経営者と現場の距離が物理的にも心理的にも近いため、経営者の想い(理念やパーパス)が直接、迅速に伝わります。

エレベーター表示器専門メーカーの株式会社島田電機製作所さまは、社員を「会社のファン」にする経営を実践しています。
社長と社員、社員同士の物理的にも心理的にも壁がない、風通しがよくて働きやすい会社を実現しています。

まずは「バケツの穴を塞ぐ」ことから

人的資本経営の取り組みは、高額なシステムや大規模な改革から始める必要はありません。

まず大切なのは、今いる社員が「この会社で働き続けたい」と思える環境を整えることです。
これは、新しい人材を採用するために「水を注ぎ続ける」前に、離職の原因となる「穴を塞ぐ」
作業を優先するということです。

広島県の菓子製造企業である株式会社八天堂さまは、かつて成果主義で組織崩壊の危機に直面しました。しかし、経営の軸を「社員を大切にする」ことに転換し、理念の策定と浸透に力を入れたことで、逆境の中でも社員が自律的に動き、V字回復を実現しました。

💡3つのヒント

中小企業が人的資本経営の第一歩を踏み出すために、今日から着手できそうなヒントを3つご紹介します。

「組織の状態」を見える化する
まずは簡易的なサーベイ(調査)やアンケート、などを通じて、「社員が何に課題を感じ、何に働きがいを感じているのか」をデータで把握することから始めてみませんか。
これらを活用し、現状把握から始めるPDCAサイクルを回しましょう。
国や政府は、IT導入補助金や業務改善助成金など、中小企業の人的資本経営を後押しする制度を用意しています。

法改正をきっかけに柔軟な働き方の取組を
法改正で就業規則の改定が伴う義務化の内容も、会社としての組織作りを見直す機会です。
従業員一人ひとりの個性や多様な働き方を尊重する仕組みを取り入れましょう。
例えば、育児・介護休業法をきっかけに、自社の課題や働き方の方向性を整理して、社内の共通認識が得られると、柔軟な勤務制度の導入を検討することにも繋がります。
中小企業は意思決定が速いのが強みです。
現場の声を活かし、柔軟に制度を変えていきましょう。

経営者が理念やビジョンを語る
高額な投資をしなくてもできるのは、経営者自身が「自社は何のために存在するのか(パーパス)」を明確にすること。
そして、理念やビジョンについて、社員と対話する場を設けられると良いですね。
こうした対話を通じて、社員の共感(エンゲージメント)を引き出し、当事者意識を育むことがボトムアップの文化につながる土台となります。