ブログをご覧いただきありがとうございます。
人的資本経営を現場につなげる視点で、中小企業の事例を一緒に見ていきたいと思います。
名付けて、うちでもマネできるヒントを探そうシリーズ。
今回注目するのは、ワークエンゲージメント向上取組事例に掲載されている株式会社福井製作所さまです。
大阪にある創業100年を超える老舗であり、LNG運搬船用安全弁*で世界トップシェア(90%)を誇るグローバルニッチトップ企業。
同社は、業績が好調で企業規模が拡大する裏側で、深刻な「人材の流出」という課題に直面していました。
*安全弁は、配管や機器の過圧保護を目的とし、異常な圧力上昇時に自動で弁を開いて流体を放出し、圧力が所定の値に戻ると自動で閉じる最終的な安全装置のことを指すそうです。
危機感:増収なのに人が辞めていく
株式会社福井製作所は、13期連続増収という素晴らしい成長を遂げていました。
しかし、社員が辞めていく数も増え続け、採用で入ってきた数と同じくらい離職者が発生している状況だったのです。
当時の社内では、経営陣からの指示が一方的に伝達されるだけで、社員が意見を述べる機会がありませんでした。
その結果、社員の不満は溜まり、中には突然「来月に辞めたい」と申し出るケースも頻繁でした。
この危機的状況に対し、社長は「業績ばかりを追求していたが、社員に対して向き合う必要がある」と気づき、「社員に対する対応がフェアではなかったかもしれない」と反省しました。
ここから、社員に対して公正(フェア)な会社を目指すという、大きな経営の転換が始まりました。
「不満の見える化」と「対話」の習慣化
まず着手したのは、社員の「心の声」を吸い上げる仕組みづくりです。
1. エンゲージメントサーベイ(意識調査)の導入
同社はワークエンゲージメントに着目し、匿名で回答できる月次のサーベイを導入しました。
導入当初、社員のネガティブなコメントが殺到したそうです。
しかし、これは「会社に意見できる場がなかった」という現状の裏返しでした。
2. 不満の即時対応
サーベイで明らかになった主な不満は、「暑い・寒い」といった職場環境と「忙しい」という労働負荷でした。
これに対し、同社はエアコン導入などの設備投資で対応。
また、「忙しい」の解消のため、休暇日数を増やしたり、1日単位だった休暇を半日単位に変更するなど、働き方に関わる制度を柔軟に改善しました。
ネガティブな意見を否定せず、経営課題として捉え、迅速に解決することが社員の信頼回復につながりました。
3. 社長発の「1on1ミーティング」
社長自らが全社員と面談を実施することからスタートし、社員数の増加に合わせて、階層ごとに頻度を定めた1on1を仕組み化しました。
面談の原則を「デスクで出来ない話をしましょう」「あなた(部下)のための時間です」「腹を割って話しましょう」として、一方通行だったコミュニケーションを双方向へと徐々に変えていきました。
挑戦を奨励し、自律性を育む組織へ
この対話の文化が定着した結果、社内には大きな変化が生まれました。
以前は失敗すると怒られる社風でしたが、今では挑戦した失敗を奨励する文化が生まれてきています。
また、従業員のやる気を重視し、社歴や役職に関係なく、プロジェクトの中心となるメンバーを立候補によって選出する制度を推進しています。
これにより、当事者意識を持った自律的な社員が育ち、組織全体が主体的に動くようになりました。
結果、エンゲージメント向上の取り組みは功を奏し、突然の退職が減り、社員の定着が改善しました。
採用活動においても「エンゲージメントの高さ」をアピールできるようになり、組織全体がより主体的な集団へと変貌を遂げました。
株式会社福井の事例は、多額な投資よりもまず、経営者が社員の声に真摯に耳を傾け、組織を「公正な場」に変えたことが大きなポイントです。
💡3つのヒント
1. 不満の見える化
匿名での意見交換ツール(サーベイなど)を導入し、社員の率直な声を吸い上げました。
物理的・時間的な不満に対し、設備投資や制度改善で応えるなど、現場に還元するサイクルを作っています。
2. 双方向の対話
社長や管理職が部下と「腹を割って話す」ことに特化した1on1ミーティングを定期的に実施しました。
会話の目的を「業務連絡」ではなく「部下の成長と体調ケア」など、対話の質を高める工夫をしています。
3. やる気が資源
社員の年齢や経験年数にこだわらず、イベントや新規プロジェクトの中心メンバーを立候補で募る仕組みを作っています。
社員の自律的な成長を促し、「失敗しても挑戦したことを評価する」という文化を醸成して組織の当事者意識を高めています。
*詳しくはこちらの資料に記載されています。
株式会社 福井製作所さま
HPはこちら→株式会社福井製作所
~これまでご紹介させていただいた企業さまです~
事例① 新たな事業機会にもつながった御津電子株式会社
事例② 株式会社八天堂の人を大切にする経営哲学
事例③ ユニークな人事評価制度の岩田商事株式会社
事例④ 働き方を変えて優秀な人材を呼び込む株式会社稲美乳販
事例⑤ 理念経営でAIに代替されない人間力を育むグローバルビジネスソリューション株式会社
事例⑥ 関わる人全員が幸せになる会社づくり島田電気製作所

