プロCHROが語る、AI時代に求められる組織変革

キャリアと制度

カインズ、ブレインパッド、YKK APといった多様な企業で組織変革を実践されてきたプロCHRO※
西田政之氏の講演を拝聴しました。

※CHRO→Chief Human Resource Officer(最高人事責任者)の略称
企業の経営陣の一員として、人事戦略の策定と実行、人的資本経営を主導する役割を担います。

中小企業でも明日からできる、組織変革の本質的なヒントを一緒に見つけていきたいと思います。

AI時代だからこそ、人に投資する「信頼」に全振りする

情報があふれる現代、私たちはどんなに優れた情報であっても、すべてを精査することはできません。
西田氏は、「唯一頼れるのは、心から信頼できる人の情報」だと断言します。

これは組織経営においても同じ。
制度やロジックだけが先行しても、経営層と現場社員の間に信頼という土台がなければ、どんな施策も絵に描いた餅になります。

信頼とは、「あなたが言うなら、私は信じよう」という関係性。
この信頼関係こそが、社員のパフォーマンスを左右する最も重要な要素になります。

中小企業は、社長や経営陣と社員の距離が近く、信頼関係を築きやすいという最大の強みがあります。
まずは、新しい施策を打ち出す前に、「信頼され、当たり前のことができるか」という人間の本質的な問いに向き合い、誠実さを通じて信頼の貯金を始めることも大切ですね。

人事制度を「評価の道具」から「対話の装置」に変える

人事制度や評価の役割は、時代とともに大きく変わっています。

過去が統率型組織のための人事役員であったとしたら、現在はビジネスパートナーとしてビジネス戦略と統合。
未来は組織変革を先導するリードパーソンとして、社員と組織の物語を共有していく役割が求められます。
未来の人事戦略の鍵を物語・パーパス・共感を社員と共有することが重要だと言われます。

意味付けの共有
評価制度は、社員の能力を測るだけのツールではありません。
それは組織の自己理解を深めるための会話装置であるべきです。

問いを共有する
経営者が「正解」を一方的に示すのではなく
「私たちは何のためにここにいるのか?」
「この課題にどう向き合うべきか?」
という問いを社員と共有し、モヤモヤしながら一緒に答えを探すプロセス自体が、組織を強くします。

社員に「自ら選ぶ」権限と「生き直す余白」を与える

社員の創造性を最大化し、自律的な成長を促すために、組織が用意すべきは
自分でデザインする機会と余白です。

カインズの事例(自律型育成)
カインズでは、「DI(Design your Career)」や「DL(Design your Learning)」のように、社員が「自分のキャリア」や「自分の学び」を自分でデザインし、選ぶプログラムを展開しました。
これは、会社が与えるのではなく、社員の内発的な意欲を引き出す仕組みです。

組織の究極の役割は「余白」づくり
AIが多くの仕事を代替する時代だからこそ、人事制度は整えるだけでなく「人の生き方に寄り添う」ことが大切だと強調します。
そして、最も重要なのは、「人が人生をもう一度生き直せる『余白』を残してあげる」こと。
この余白こそが、AIには決して代替できない創造力を生むコスト(投資)であり、人がつくる信頼の空間だと言います。

小さな会社こそ「信頼」で変革を

西田氏の講演から、組織変革の鍵は最新のテクノロジーや複雑な制度ではなく、人間的な本質にあるということが伝わってきました。

中小企業は、経営者と社員の距離が近いという最大の強みを使って、この信頼と余白を基盤とした組織変革を実践することが可能になるのではないでしょうか。